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横浜地方裁判所 昭和42年(ワ)1845号 判決

原告 尹順女

右訴訟代理人弁護士 三野研太郎

同 木村和夫

同 高沢正治

三野研太郎訴訟復代理人弁護士 伊藤幹郎

被告 丁海喆

右訴訟代理人弁護士 田子璋

被告 山田恒雄

右訴訟代理人弁護士 三輪一雄

同 猪狩庸祐

当事者参加人 笠原清一

右訴訟代理人弁護士 稲沢宏一

右訴訟復代理人弁護士 遠藤雄司

同 板垣吉郎

主文

一、参加人と原告との間において、参加人が別紙物件目録(一)(二)記載の土地につき所有権を有することを確認する。

二、被告丁海喆は参加人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三、被告山田恒雄は参加人に対し、別紙物件目録(二)記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

四、原告の請求をいずれも棄却する。

五、訴訟費用中、参加によって生じた分は原告及び被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(本訴)

一、原告の請求の趣旨

1. 被告丁海喆(以下「被告丁」という)は原告に対し別紙物件目録(一)(二)記載の各土地(以下「本件(一)(二)の土地」という)についてなされた別紙登記目録(一)記載の登記、同物件目録(四)記載の建物(以下「本件建物」という)についてなされた同登記目録(三)(四)記載の各登記の各抹消登記手続をせよ。

2. 被告山田恒雄(以下「被告山田」という)は原告に対し、本件(二)の土地についてなされた別紙登記目録(二)記載の登記の抹消登記手続をせよ。

3. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、右請求の趣旨に対する被告らの答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

(参加訴訟)

一、参加人の請求の趣旨

1. 主文第一ないし第三項と同旨。

2. 訴訟費用は原告及び被告らの負担とする。

二、右請求の趣旨に対する原告及び被告らの答弁

1. 参加人の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は参加人の負担とする。

第二、当事者の主張

(本訴)

一、原告の請求原因

1. 原告は昭和三八年三月二一日参加人からその所有の別紙物件目録(三)記載の土地(以下「本件(三)の土地」という)を代金六七三万二〇〇〇円にて買受けたが、当時右土地は渡辺美津子名義であったので直ちに所有権移転登記を受けることができなかった。

そこで原告は昭和三九年八月二五日ころ参加人との間で参加人の右移転登記義務の履行を担保する目的で、同人所有の本件(一)(二)の土地を譲り受ける旨の信託的譲渡契約を締結し、横浜地方法務局同日受付第二五八四一号をもって所有権移転登記を経由した。

2. 原告は本件建物を所有している。

3. 被告丁のため、本件(一)(二)の土地につき別紙登記目録(一)記載の登記及び本件建物につき同目録(三)(四)記載の各登記が、また、被告山田のため本件(二)の土地につき同目録(二)記載の登記がそれぞれなされている。

4. よって原告は被告らに対し所有権に基づき被告らの右各登記の抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する被告らの認否

請求原因1の事実のうち、本件(一)(二)の土地がもと参加人の所有であったことは認め、その余は不知。同2、3の事実は認め、同4は争う。

三、被告らの抗弁

1. (被告両名―本件(一)(二)の土地について)

(一) 被告丁は、昭和三九年一二月二四日原告に対し朴皇淳(以下「朴」という)を連帯債務者として五〇〇万円を弁済期昭和四〇年三月一三日利息年一割五分、遅延損害金八銭二厘の約定にて貸し渡し、その際原告から右債務を担保する目的で(一)(二)の土地を将来清算を必要としない強い譲渡担保の趣旨で譲り受けた。

(二) 仮に原告が右消費貸借及び譲渡担保契約を自ら締結しなかったとしても、原告の夫である朴が原告を代理して締結した。

2. (被告丁―本件建物について)

(一) 被告丁は昭和三九年一二月二五日原告に対し朴を連帯債務者として一五〇万円を右五〇〇万円の貸金と同一条件で貸し付けた。更に被告丁は昭和四〇年九月一八日右一五〇万円の弁済期を同年一一月一七日まで猶予するとともに、原告に対し四五〇万円を右と同一条件で貸し渡した。そこで被告丁は昭和四〇年九月一八日原告との間で右合計六〇〇万円の債務を担保する目的で本件建物につき右六〇〇万円の消費貸借契約上の債務不履行を停止条件とする代物弁済契約並びに抵当権設定契約を締結した。

(二) 仮に原告が右消費貸借契約及び担保権設定契約を自ら締結しなかったとしても、朴が原告を代理して締結した。

四、 抗弁に対する原告の認否

1. 抗弁1(一)の事実は否認する。同(二)の事実のうち朴が被告ら主張の頃被告丁に担保のため本件(一)(二)の土地を譲渡する旨同被告と合意したことは認め、その余の事実は否認する。朴は原告が知らない間に原告の印章を盗用して原告名義で契約書の作成、登記手続等を行ったものであり原告は無関係である。

2. 抗弁2(一)の事実のうち朴が原告主張のころ被告丁から一五〇万円借りたこと、その弁済期が被告丁主張の日まで猶予されたことは認め、その余の事実は否認する。同(二)の事実のうち朴が被告丁主張の代物弁済契約抵当権設定契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。右代物弁済契約及び抵当権設定契約は原告が知らない間に朴が原告の印章を盗用して原告名義で行ったものであり、原告は無関係である。

五、原告の再抗弁

1. 朴は昭和三九年一一月一四日宋唐鎬(以下「宋」という)から三五〇万円を利息月六分、手数料二万円、期間三か月の約定で借り受けたが、三か月分の利息及び右手数料合計六五万円を天引きされ、実際に交付を受けた金員は金二八五万円だった。その後宋は被告丁に右債権の肩代りを求め、被告丁もこれを了承したので、朴は宋及び被告丁と話し合い同年一二月二四日、朴が被告丁から五〇〇万円を弁済期昭和四〇年三月一三日、利息月六分で借り受けたこととし、右借受金をもって宋からの借入金を返済することにした。しかし、被告丁は右貸金五〇〇万円に対する利息等の名目で一六五万円を天引きし、残余金三三五万円を直接宋に手交して、朴と宋との間の貸借関係を清算したため、朴は現実には金銭を受領することができなかった。従って、朴が被告丁に対して負う債務は、別紙計算書(一)のとおり昭和四五年六月八日の時点で、元本三五一万四四〇〇円、遅延損害金二七六万一四六四円合計六二七万五八六四円であった。

2. 被告丁は抗弁2(一)記載の一五〇万円を朴に対し期間三か月利息月六分の約定で貸し付けたが、その際三か月分の利息二七万円を天引きしたので、朴が実際に受領した金員は一二三万円であった。また、被告丁主張の四五〇万円は右一五〇万円及び右五〇〇万円の合計六五〇万円に対する月六分の割合による一一か月分(昭和三九年一一月一四日から同四〇年九月一八日まで)の利息及び遅延損害金四二九万円並びに被告丁が新潟県高田市から上京するに際しての旅費・宿泊費及び右上京期間中の休業補償等の費用合計二一万円の合計額であり、朴が実際に受領した金額ではない。従って朴が被告丁に対して負担する債務は別紙計算書(二)記載のとおり昭和四五年六月八日の時点で元来一二七万八七〇四円、遅延損害金一〇〇万四七五一円合計二二八万三四五五円であった。

3. 朴は昭和四五年五月二二日横浜弁護士会控室において、被告丁の代理人田子璋弁護士に対し、右1、2記載の合計金をこえる九〇〇万円を現実に提供したがその受領を拒絶された。そこで朴は同年六月八日被告丁のために右1、2記載の金員を弁済のため供託した。

六、再抗弁に対する被告らの認否

1. 再抗弁1の事実のうち、宋が朴に対し三五〇万円の貸金を有していたことは認め、その余の事実は否認する。被告丁の五〇〇万円の貸金(原告と朴が連帯債務者)のうち二〇〇万円については同被告が宋に対して有していた債権と差引計算することとして(朴が二〇〇万円を宋に、宋がこれを被告丁に返済したことにする)残三〇〇万円は被告丁から朴に交付されたものである。

2. 再抗弁2の事実のうち、被告丁が原告主張の一五〇万円を朴に貸し付けたことは認め、その余の事実は否認する。被告丁は現実に一五〇万円及び四五〇万円を交付したものであって一五〇万円について利息を天引したり、又四五〇万円が原告主張のような利息等の合計額ということはない。

3. 再抗弁3の事実のうち被告丁の代理人田子璋弁護士が原告主張の日、その主張の場所で朴に会ったこと、朴がその主張の日に弁済のための供託をしたことは認め、その余の事実は否認する。田子璋弁護士は朴から和解の申出を受けたが、これを断ったにすぎない。

(参加訴訟)

一、参加人の請求原因

1. 参加人は本件(一)(二)の土地を所有している。

2. 原告は参加人の本件(一)(二)の土地の所有権を争い、また、被告丁のために本件(一)の土地につき別紙登記目録(一)記載の登記が、被告山田のために本件(二)の土地につき同目録(二)記載の登記がなされている。

3. よって参加人は原告との間で、参加人が本件(一)(二)の土地の所有権を有していることの確認を求めるとともにその所有権に基づき、被告丁に対し本件(一)の土地につき、被告山田に対し本件(二)の土地につきそれぞれ真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二、請求原因に対する原告及び被告らの認否

請求原因1の事実のうち参加人が昭和三九年八月二四日以前本件(一)(二)の土地を所有していたことは認めその余は争う。同2の事実は認める。同3は争う。

三、抗弁

1. (原告)

本訴請求原因1記載のとおり、原告は昭和三九年八月二五日ころ参加人から本件(一)(二)の土地の所有権を信託的に譲り受け、参加人はこれを喪失した。

2. (被告両名)

(一) 本訴抗弁1記載のとおり被告丁は原告から本件(一)(二)の土地を譲渡担保として譲り受けた。

(二) 参加人は原告と通謀の上昭和三九年八月二五日原告に対し本件(一)(二)の土地について所有権移転登記をしてその所有権を原告に移転した旨の外観を作出したのであり、被告丁は右譲渡担保契約の際右登記が虚偽であることを知らず真実に合致するものと信じていたのであるから民法九四条二項の適用ないし類推適用により、参加人は被告丁の本件(一)(二)の土地の所有権取得を争い得ない。

3. (被告山田)

仮に被告丁が善意でないとしても

(一) 被告丁は昭和四一年一一月二六日本件(二)の土地を有限会社共立商事に、更に同会社は同日これを被告山田に代金四九八万七八五〇円で売り渡した。

(二) 被告山田は有限会社共立商事から本件(二)の土地を買い受ける際、原告と参加人間の前記所有権移転登記が虚偽であることを知らず、真実に合致するものと信じていたのであるから民法九四条二項の適用ないし類推適用により参加人は被告山田の本件(二)の土地の所有権取得を争い得ない。

四、抗弁に対する参加人の認否

1. 抗弁1の事実のうち参加人が原告主張の日に参加人所有の本件(三)の土地をその主張の代金額で譲渡したこと、右土地が当時渡辺美津子名義で、直ちに所有権移転登記をすることができない状況にあったこと、右登記の代りに本件(一)(二)の土地につき原告主張の所有権移転登記を経由したことを認め、その余の事実を否認する。

本件(一)(二)の土地についての右所有権移転登記は本件(三)の土地の所有権移転登記が出来るようになったら直ちに抹消することを条件として仮にしたにすぎず、所有権の移転を伴うものではない。

2. 抗弁2(一)の事実は知らない。同(二)の事実のうち被告ら主張の日に参加人が原告に対し本件(一)(二)の土地について所有権移転登記をしたことは認め、被告丁が本件(一)(二)の土地の登記が虚偽であることを知らなかったとの点は否認し、その余は争う。

被告丁は本件(三)の土地の所有権移転登記を受けるつもりが、誤まって本件(一)(二)の土地の所有権移転登記を受けてしまったのであって、本件(一)(二)の土地の登記を信頼して本件(一)(二)の土地の所有権を取得したものではないから民法九四条二項の適用ないし類推適用はない。

3. 抗弁3(一)の事実は知らない。同(二)の事実のうち被告山田が本件(二)の土地の登記を信頼して同土地を買い受けたとの点は否認し、その余は争う。

被告山田は本件(三)の土地の一部を譲り受け、その土地について所有権移転登記を受けるつもりが、誤まって本件(二)の土地の所有権移転登記を受けてしまったのであって、本件(二)の土地の登記を信頼して本件(二)の土地を買い受けたものではないから、民法九四条二項の適用ないし類推適用はない。

五、参加人の再抗弁

1. 前記のとおり本件(一)(二)の土地について参加人から原告へ対してした所有権移転登記は仮のものであって参加人が本件(三)の土地について原告への所有権移転登記が可能になったときは直ちに抹消登記をなす約束であったところ、本件(三)の土地について原告への所有権移転登記が可能になったので参加人は原告に対し昭和四三年一二月二二日到達の書面をもって、その旨通知し、同書面到達後三日以内に本件(一)(二)の土地について参加人に所有権移転登記手続をすることを請求した。

2. また、原告は本件(三)の土地の売買代金残額一五二万二〇〇〇円の支払を怠っていたので、参加人は右書面で原告に対し右催告期間内にその支払をなすよう催告し、右期間内に各履行のないことを停止条件として本件(三)の土地の売買契約を解除する旨の意思表示をした。

そして右期間内に履行がなかったので、本件(一)(二)の土地についてなされた前記所有権移転登記の原因となった本件(三)の土地の売買契約は昭和四三年一二月二五日の経過をもって解除された。

3. (錯誤)

本件(一)(二)の土地についてなされた原告と被告丁との間の譲渡担保契約、有限会社共立商事と被告山田との間の売買契約は、いずれも本件(三)の土地あるいはその一部を目的とするものであるところ、右土地を本件(一)(二)の土地あるいは本件(二)の土地と誤信して表示したのであるから、これらの契約はいずれもその要素に錯誤があって無効というべきである。

六、再抗弁に対する認否

1. (原告)

再抗弁1、2の事実中原告が参加人からその主張の書面を受け取ったことは認め、その余は争う。

2. (被告両名)

再抗弁3は争う。

民法九五条は表意者保護の制度であるから、表意者である原告もしくは被告丁、或いは有限会社共立商事もしくは被告山田が錯誤による契約の無効を主張しない以上、第三者である参加人はこれを主張しえない。

七、再々抗弁

1. (原告―解除権の濫用)

本件(一)(二)の土地の所有権移転登記の抹消と本件(三)の土地の売買残代金の支払は、参加人の原告に対する本件(三)の土地の所有権移転登記が可能となったとき、これと引換えにする約束であったが、参加人において右登記義務を履行しない。また、本件(三)の土地の代金残額は当事者間に明らかでなく、参加人は原告に対して右金額の内容を通知する義務があるにもかかわらずこれを怠って催告したのであり、しかも参加人は本件(三)の土地代金として既に六〇〇万円余の金員を受領し、原告に対し原告が同土地上にアパートを建築して使用することを承認したのであるから、これらの事情を考慮すると参加人がした売買契約解除の意思表示は解除権の濫用にあたる。

2. (被告ら)

被告丁は抗弁2(一)記載のとおり本件(一)の土地を取得して、その旨の登記を経由し、被告山田も抗弁3(一)記載のとおり本件(二)の土地を取得してその旨の登記を経由したから民法五四五条一項但書の第三者に該当し、参加人は被告らに対し解除の効果を主張しえない。

八、再々抗弁に対する参加人の認否

1. 再々抗弁1の事実のうち、参加人が本件(三)の土地代金の一部を受領したこと、参加人が原告に対し本件(三)の土地上にアパート建築を承認してその使用を許したことは認め、その余は争う。

2. 再々抗弁2の事実のうち被告らが各主張の登記を経由したことは認め、その余は争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、本件(一)(二)の土地に関する参加人の請求及び原告の請求について

1. 本件(一)(二)の土地がもと参加人の所有に属していたこと、原告が参加人の現在の所有権を争い、本件(一)の土地につき被告丁のため、本件(二)の土地につき被告山田のためそれぞれ原告及び参加人主張の登記が経由されていることは当事者間に争いがない。

2. 原告は、原告が右土地の所有権を参加人から信託的譲渡契約により取得した旨主張するのでこの点について判断する。

(一)  〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

参加人は昭和三七年一〇月ころ、横浜市教育委員会の要請により本件(一)(二)の土地(当時は、横浜市南区下永谷町字渡戸一四〇三番の一筆の土地の一部であり、これから昭和三七年一一月二日同所同番二山林一、〇一一平方メートルが分筆され、昭和四一年一一月一六日これが更に本件(一)(二)の土地に分筆されたものである)を代替地と交換に横浜市立南高等学校(以下「南高校」という)のグランド用地として提供することとし、そのために、参加人、渡辺喜代司、横浜市の三者間で先ず、右渡辺が近隣に所有していた本件(三)の土地(当時は前記同所一四一三番の一筆の土地の一部であったが昭和三九年六月一八日これから分筆された)と本件(一)(二)の土地とを参加人と渡辺との間で交換した上、渡辺において本件(一)(二)の土地を横浜市に提供することとした。なお右交換は横浜市が作成した実測による交換計画図を基に行い、その所有権移転登記手続は本件(三)の土地の分筆手続が終了し、横浜市と周辺の他の土地所有者との交渉が整った後行うこととなった。その後参加人は原告に対し右交換により取得する予定の本件(三)の土地を売却することとし、原告やその夫朴の検分を経た後、昭和三八年三月一二日参加人の代理人寺戸栄司と原告の代理人朴との間で、本件(三)の土地につき、代金六七三万二〇〇〇円、内二〇〇万円は同日、残金は同年四月一〇日に参加人が原告に所有権移転登記手続を行うのと引換えに支払うこととして、売買する旨の合意が成立した。しかし右契約締結の当時、原告も朴も、本件(三)の土地が右渡辺の所有名義であって参加人所有名義の本件(一)(二)の土地との交換手続がすまなければ参加人の所有名義とならない土地であることは知らなかった。原告は代金のうち契約時に支払うべき二〇〇万円を支払ったものの、残金の支払を遅滞し、その後朴と寺戸との話し合いで逐次弁済を行ったが、なおその一部を残していた。他方昭和三八年当時、本件(三)の土地については付近の道路整理が未了であったりしたことから渡辺喜代司から参加人への移転登記ができない状態であったので、参加人から原告への移転登記もできなかった。朴は、原告から、代金の大半を支払ったにもかかわらず移転登記を受けられないことの不満をやかましく訴えられて参加人と交渉したところ、同人から本件(三)の土地が本件(一)(二)の土地と交換によって参加人が所有名義を取得する予定の土地であり、前記の事情で参加人への移転登記が未了であることを知った。そこで朴は参加人の代理人寺戸との間で参加人が本件(三)の土地の所有名義を取得して原告に移転登記をすることが可能になるまでの間一時的に当時参加人名義であった本件(一)(二)の土地の登記名義を原告に移転しておくことを合意し、この合意にしたがって昭和三九年八月二五日本件(一)(二)の土地について参加人から原告に対する所有権移転登記(横浜地方法務局同日受付第二五八四一号)がなされた。原告は日本語に精通していないこともあって右登記をもって本件(三)の土地の登記と誤信し、既に引渡を受けていた本件(三)の土地上にその後アパートを建築した。

ところで、その後昭和四三年一二月二一日ころまでには本件(三)の土地につき、参加人と渡辺喜代司との間の交換及びその登記が可能となった(なお、本件(三)の土地は分筆前の土地につき昭和三九年六月八日渡辺喜代司の娘美津子の所有名義に登記がなされた上同月一八日分筆された)。そこで参加人は原告に対し翌二二日到達の書面で本件(三)の土地について渡辺から参加人への、そして参加人から原告への所有権移転登記が可能となったことを通知するとともに本件(一)(二)の土地について所有権を参加人名義へ戻す登記手続をするよう催告した。

(二)  証人朴皇淳の証言、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  右認定の事実によれば、原告が本件(一)(二)の土地について有する各登記は、本件(三)の土地の移転登記がすぐにはできない状態にあったことから、これができる状態になるまでの間便宜上登記名義のみを移転したものにすぎないと認められるのであって、原告や被告ら主張の如く本件(一)(二)の土地について信託的にせよ所有権の移転を伴う契約関係があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

3. してみれば、原告が本件(一)(二)の土地につき真正に所有権を取得した旨の原告の主張は理由がないと共に、右所有権取得を前提とする原告の被告らに対する請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく失当であること明らかといわなければならない。

4. 次に、前記認定の事実によれば、本件(一)(二)の土地についての参加人から原告への所有権移転登記は、本件(三)の土地について参加入が原告に対して負担している移転登記義務の履行を担保する意味をもつものであったことを窺うことができる。しかしながら、前記認定の事実によれば参加人の本件(三)の土地取得は本件(一)(二)の土地との交換によるものであって参加人から渡辺喜代司に対する本件(一)(二)の土地の移転登記と右渡辺から参加人に対する本件(三)の土地の移転登記は同時履行の関係に立つものであり、したがって、本件(一)(二)の土地についてなされた参加人から原告への移転登記は右渡辺から参加人に対する本件(三)の土地の移転登記が可能となったときには同土地との交換の登記をなす前提としてこれを抹消し或いはこれに代えて改めて移転登記をするなどして参加人名義の登記へ戻す必要があるものであり、原告の代理人朴もそのことを知ったうえで本件(一)(二)の土地について原告名義への移転登記を受けたものと認められるから、参加人と朴の間では本件(一)(二)の土地について原告名義への移転登記をする際、本件(三)の土地について右渡辺から参加人への移転登記が可能となったときにはすみやかに本件(一)(二)の土地の原告名義への移転登記を抹消するなどして参加人名義へ戻すことを当然の前提としていたものと推認される。従って遅くとも本件(三)の土地について渡辺喜代司から参加人への移転登記が可能となったと認められる昭和四三年一二月二二日ころには原告は参加人に対し本件(一)(二)の土地の登記名義を交換の前提として参加人名義へ戻すべき義務を負ったものというべく、原告は参加人からの右土地についての抹消登記ないしこれに代る所有権移転登記請求を右土地に関する原告名義の登記が担保の趣旨であったことを理由に拒絶できるものではない。

5. また、被告らは、参加人と原告との間に本件(一)(二)の土地について所有権の移転がなかったとしても、参加人は原告と通謀して本件(一)(二)の土地について原告に所有権移転登記をしたのであるから、本件(一)(二)の土地の原告への移転登記を信頼して取引関係に入った善意の第三者に該当する被告らについては民法九四条二項の適用ないし類推適用をすべきであると主張するのでこの点について判断する。

(一)  当事者間に争いがない事実及び〈証拠〉によれば次の事実が認められる。

宋は昭和三九年一一月ころ原告及び朴を連帯債務者として両名に対し、原告が本件(三)の土地にアパートを建てる建築資金として三五〇万円を貸し付けたが、その際宋は朴からアパート建築中の本件(三)の土地を案内され、現地を確認のうえ、原告との間で同土地を担保として取得する合意をし、原告から同土地であるとして本件(一)(二)の土地について所有権移転登記を受けたので、宋は先に現地を確認した本件(三)の土地の登記簿上の表示が本件(一)(二)の土地であると思い込み、合意どおりの登記がなされたものと考えていた。その後宋には右貸金の回収をはかる必要が生じ、又朴と原告の夫婦も金融を欲していたことから、宋は友人である被告丁に対し五〇〇万円を原告夫婦に貸付けて欲しい旨依頼し、担保としては現に宋が原告から担保として移転登記を受けている土地があることを話し、同年一二月二三日本件(三)の土地へ被告丁を案内して現地を確認させた。そして、被告丁も原告夫婦に対する貸付を承諾したので、宋及び被告丁は同月二四日原告夫婦が居住していた本件建物に赴き、被告丁が原告及び朴を連帯債務者として両名に対し五〇〇万円を貸し付けたが、現金の授受に際し内二〇〇万円については宋が被告丁に対し二〇〇万円の債務を負担していたので、原告及び朴が宋に対する三五〇万円の債務のうちの二〇〇万円を右五〇〇万円の貸金のなかから返済し、これをもって宋から被告丁に対する同額の返済にあてたこととして三者の間で順次差引勘定して残三〇〇万円を朴に手渡した。原告はそのなかからさらに一五〇万円を三五〇万円の貸金の残額に対する弁済として宋に交付し、結局原告は一五〇万円を手にした結果となった。又その際原告は右五〇〇万円の債務を担保する趣旨で、従前宋に担保として提供していた本件(三)の土地を被告丁のために担保として提供することに同意し、同土地が登記簿上本件(一)(二)土地であるとして朴を代理人として本件(一)(二)の土地について宋の所有権移転登記を抹消するとともに被告丁に対し、別紙登記目録(一)記載の買戻特約付の所有権移転登記をした。なお被告丁は前記のとおり右五〇〇万円の貸付けをする前日の二三日に宋とともに本件(三)の土地に赴いたほか、翌二四日にも本件(三)の土地に赴いて現地を確認しており、この土地を担保として取得する意思で、この土地について移転登記を受けたものと信じていたものであり、この土地とは別に本件(一)(二)の土地が存在することすら知らず、まして本件(一)(二)の土地を取得する意思は毛頭なかった。

その後被告丁は右貸金の回収をはかるため、本件(三)の土地のうち原告のアパートの建っていない部分を売却しようと考え、本件(三)の土地を分筆するつもりで分筆前の本件(一)(二)の土地(当時は一四〇三番二山林一、〇一一平方メートル)を登記簿上本件(一)の土地と本件(二)の土地に分筆したうえ、昭和四一年一一月二六日有限会社共立商事に四五〇万円で売却した。なお被告丁は売却にあたり右共立商事に対し本件(三)の土地のうちアパートの建っていない部分が売却する土地である旨現地において指示した。その後被告山田は右共立商事から右の土地を譲り受け、使用を開始したが、登記簿上は本件(二)の土地について被告丁から被告山田への別紙登記目録(二)記載の所有権移転登記がなされた。

(二)  乙第三七号証、第三八号証の各供述記載、証人朴皇淳の証言(第一、第二回)、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  以上認定の事実によれば、被告丁は原告との間で現地について本件(三)の土地を担保として取得する合意をしたが、この土地が登記簿上何番の土地と表示されているかを調査確認しないまま、この土地について移転登記を受ける趣旨で本件(一)(二)の土地について移転登記を受けたことになり、又被告山田も本件(三)の土地を売却の対象地として現地で指示されて取得する合意をし、同様にその土地の登記を受ける趣旨で本件(二)の土地について所有権移転登記を受けたものであり、既に学校用地となっている本件(一)(二)の土地を取得する意思は全くなかったのであるから、被告らが本件(一)(二)の土地についての参加人から原告に対する所有権移転登記を信頼して本件(一)(二)の土地の取引関係に入った第三者であるということはできない。

したがって、本件について民法九四条二項を適用ないしは類推適用すべき旨の被告らの主張は理由がなく採用することができない。

6. 以上の次第で、本件(一)(二)の土地は依然として参加人の所有に属し、被告らがこれにつきそれぞれ別紙登記目録(一)(二)記載の各登記を保有する根拠はなく、原告及び被告らの抗弁は理由がない。

二、本件建物に関する原告の請求について

1. 本件建物が原告の所有であること、本件建物につき被告丁のため原告主張の登記が経由されていることは当事者間に争いがない。

2. 被告丁は本件建物について原告との間で抵当権設定契約並びに停止条件付代物弁済契約を締結した旨主張するのでこの点について判断する。

(一)  〈証拠〉によれば次の事実が認められる。

被告丁は、原告及び朴に対して前記五〇〇万円を貸付けた翌日の昭和三九年一二月二五日再び宋を通じて原告及び朴から本件(三)の土地上のアパート建築資金並びに当時施行中の横浜市港北区日吉本町所在土地の造成工事資金として一五〇万円の貸付申込を受けて、同人らに対し手持ちの五〇万円と松本栄吉から借りた一〇〇万円を合わせて一五〇万円を弁済期昭和四〇年三月一六日、利息年一割五分、遅延損害金日歩八銭二厘の約定で貸し付け、その際原告所有の本件建物について代物弁済予約並びに抵当権設定契約を締結し、翌年一月六日所有権移転請求権仮登記並びに抵当権設定登記を経由した。そして右各登記をするについて原告は朴にその手続の代行を委ねる趣旨で原告の実印及び本件建物の権利証を手渡し、朴が右実印を使って原告名義の登記委任状を作成して司法書士に右手続を委任した。その後被告丁は、朴から、右日吉本町の土地が造成工事完了の上売却されれば直ちに借金の返済はできるからとして、更に造成工事資金として四五〇万円の貸付方申込を受け、先の貸金を回収するためにはやむをえないと判断してこれを了承し、昭和四〇年九月一八日、原告及び朴に対して本件建物において四五〇万円を弁済期同年一一月一七日、利息年一割五分、遅延損害金日歩八銭二厘の約定で貸し渡し、先に貸し付けた一五〇万円の弁済期も右同日とすることとし、合わせて六〇〇万円の貸付金とすると共にこれを担保するため、原告との間で、本件建物につき、抵当権設定契約、債務不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結した。そこで朴は同日原告からその実印を預り、これを使用して、原告の代理人として印鑑証明書を取得するとともに原告名義の登記委任状を作成して司法書士に登記手続を委任し、同月二一日従前の一五〇万円の貸金担保のための前記抵当権設定登記、所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をなすと共に被告丁のために別紙登記目録(三)(四)記載の各登記を経由した。

(二)  原告は右消費貸借及び担保権設定はいずれも夫である朴が原告に無断で原告の印章を盗用する等して行ったもので、原告は無関係である旨主張し、乙第三七号証、第三八号証の各供述記載、証人朴皇淳(第一、二回)、同荒木幸徳、原告本人の各供述はいずれも前記認定に反し右主張にそうものであるが、右のうち荒木証人の証言は右認定の貸付より後に主として原告や朴証人からの伝聞をもとにした推測であり、その余の各供述はいずれも不自然でにわかに信用し難い。

又、原告は右貸金のうち、一五〇万円については利息が天引きされ、四五〇万円は従前の貸金の利息等の合計額であって実際に受領したものではない旨主張する。

そして、証人池田弘の証言及び同証言により同証人が作成したメモであることが認められる甲第一〇号証の一二、第一一、第一二号証の記載によれば、当時被告丁が専務取締役をしていた和信物産株式会社は不動産を抵当にとって金融を行うことを業としており、通常日歩一〇銭の割合で利息等を得ていたこと、昭和四四年中和信物産株式会社従業員池田弘が朴及びその知人の鄭東仁と朴の債権の返済について話し合い、その際計算関係を記載したメモを作成したが、このメモには一五〇万円と五〇〇万円の貸金の精算のことのみが記載され、四五〇万円の貸金についての記載がないことが認められ、これらの事実は原告の右主張にそうものであるかのようである。しかし、被告丁が専務取締役である会社が高利貸をしていたからといって、直ちに被告丁の貸付が原告主張の如きのものであったということはできず、又右池田作成のメモも、証人池田弘の証言及び被告丁の本人尋問の結果によれば、同被告の個人的債権の内容を熟知していなかった池田弘が朴から債務返済の相談を受けた際、朴のいう貸金が仮にそのとおりであるとして、元利等の計算関係を示したものにすぎないことが認められ、右メモの記載をもって前記認定を覆すことはできず、また甲第九号証、第一四ないし第一七号証の記載、証人朴皇淳(第一ないし第三回)、同鄭東仁の証言中には原告の主張にそう部分がみられるが、そのうち、甲第九号証、第一五号証は被告丁の本人尋問の結果及びこれによって成立の認められる乙第三二号証に照らし、甲第一六号証は証人池田弘の証言に照らして信用できず、その余の書証の記載も信用できない。また右各証言は一貫性がなく、不自然であってこれまたにわかに信用し難い。そして、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

3. 原告の債務弁済の再抗弁

原告の債務弁済(供託)の主張は、一五〇万円の債務については利息の天引きがなされたことを、四五〇万円の債務については存在しないことを前提とするものであるところ、前記のとおり一五〇万円の債務については利息の天引がなされたと認めることはできず、四五〇万円の債務についても全額交付されたものと認められるのであって、原告の主張はその前提を異にするから、その余の点について判断するまでもなく、採用することができない。

三、よって参加人の原告及び被告らに対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 小田原満知子 裁判官遠山廣直は転補されたため署名押印することができない。裁判長裁判官 佐藤安弘)

〈以下省略〉

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